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見える天才・見えない天才…フィギュアスケートグランプリシリーズを見て


見える天才・見えない天才…フィギュアスケートグランプリシリーズを見て

フィギュアスケートグランプリシリーズ2015を見終わってまだ興奮冷めやらない感じだ。

GPファイナルでは、世界のトップ6の素晴らしい演技を十分に堪能させて貰った。

男子シングルでは、自身の肉体を憑代に安倍晴明が宿ったかのような迫真の演技を見せた羽生結弦選手が、前人未到の330点超えでGPファイナル3連覇というを偉業を成し遂げ、GPファイナル初出場の宇野昌磨選手は、初出場とは思えない堂々とした演技で見事銅メダルを獲得、村上大介選手は、GPファイナル出場という目標をクリアし、ますます今後に期待ができる結果に。

女子ではGPファイナル初出場ながら、宮原知子選手が銀メダルという目覚ましい躍進を遂げた。

私は努力ができない人間だけど、ひたむきに努力している人を見るのが好きだ。

その宮原選手について、濱田美栄コーチがテレビのインタビューに答えているのを見た。

「言われたことを一度では出来ないドンくさい子だった。覚えるのは誰よりも時間がかかる不器用な子…でも、例えば50回やりなさいと言うと、100回やるような子」
うろおぼえなので、細部は違っているかもだけど、そんなニュアンスだった。

スケートの解説などからも宮原選手がいかに努力家であるかということが伝わってくる。

ふと『アラベスク』というマンガのワンシーンを思い出した。

山岸涼子先生による長編バレエ漫画だが、発表は1971年から1975年とかなり古いので、今では、知っている人はあまりいないかもしれない。

舞台は、1970年代の共産体制下のソビエト連邦。

キエフのバレエ学校で学んでいたノンナ・ペトロワは、ソビエトの「金の星」と称されるユーリ・ミロノフに見出され、レニングラード・バレエ学校に編入する。

紆余曲折の後ノンナはライバルに打ち勝ち、バレエ公演『アラベスク』のモルジアナ役を見事射止め、公演は大成功に終わる。

けれど、成功したのも束の間、『アラベスク』が映画化されることが決まり、映画版のモルジアナ役を、今度はモスクワ・ボリショイ・バレエ団が誇る天才少女ラーラと争うこととなる。

師であり相手役でもあるミロノフの厳しいレッスンが続く。ミノロフの言うことをいとも簡単にやってのける天才ラーラに対して、不器用なノンナはなかなかうまく踊れない。

『アラベスク』の映画監督のレオがやってきて、「ノンナとラーラどっちがいいか?」とミロノフに問いかける。

  

ミロノフ:「たとえばだ、ラーラの踊りの解釈がまちがっていたとする。その時は一言いえばいい。彼女は一度でこっちが要求していた踊りを踊ることができるんだ」

レオ:「へぇーっ、やっぱり天才だな。ノンナは?」

ミロノフ:「だめだ。なかなか踊れん」

レオ:「とすると実力じゃやっぱりラーラが上なのかェ」

ミロノフ:「一度で完璧に踊れるということはおそろしいことだ。なぜなら…そこまでだからだ。一度で完璧に踊れないものは、10回踊るとすれば10回努力する。20回なら20回努力する。全力でね。
そしていつか要求したもの以上を踊ることになるんだ。それはもうずっとつづく。踊りつづけているかぎり」

レオ:「ふむおもしろい。みえる天才とみえない天才………か」

『アラベスク』(山岸涼子著)より

見える天才ラーラに対して、ノンナは見えない天才というわけだ。

そのシーンが頭に浮かんだのだ。

ノンナがに類まれな才能があってレニングラードに招かれたように、宮原選手にも類まれな才能があると思う。けれど、濱田コーチがインタビューで答えていたように、習得までに時間のかかる選手であったことは事実だろう。

50回やりなさいと言うと、100回やるような宮原選手は、不断の努力を重ね、要求される以上の演技を身に着けていったのではないだろうか。

その姿は、まさに「みえない天才」だ。

私たちは、短時間に習熟する天才性こそ賞賛に値すると考えがちだ。
けれど、不断の努力を重ねるものは、「見える天才」に追いつくだけでなく、それをはるかに凌ぐ領域に達する可能性を持つ。

ものごとには全く別の側面があること、不器用が必ずしも劣っているわけではないことに、宮原選手は気づかせてくれる。

小柄な身体から繰り出される、努力に裏打ちされた安定感のある演技は、観るものを惹きつける。
恥ずかしがり屋で控えめな宮原選手の胸に流れるフィギュアスケートへの情熱に感動を覚えるのだ。

更なる高みに駆け上がる姿を見てみたいと思う。

それでは、一年の休養を経て、GPファイナルに出場を果たした浅田真央選手はどうだろうか。

浅田選手の努力家ぶりを疑う人はいないだろう。
そう、浅田選手は、見える天才・見えない天才の二つを併せ持つ、稀有の天才と言える。

見える天才が、できたそれ以上を求めなくなることを限界とするのに対して、浅田選手はできて尚、努力し続けることができる人だ。

その浅田選手ですら、トップの座に長くとどまることは簡単ではない。
それだけフィギュアスケートの世界は厳しい。

浅田選手が復帰してくれたことに感謝しているし、一年のブランクがあってもGPファイナル出場を果たしショートプログラムでトリプルアクセルを決めたことは驚嘆に値する。
それだけで十分素晴らしいことだが、他ならない浅田選手がそれでは満足しないのだろう。
それが高難度のプログラムにも表れているし、体調が万全でないのにフリーに出場したことにも窺える。

色々な人が色々なことを言うかもしれない。
それでも自分の決めたことを信じて滑ってほしい。
浅田選手がたどり着いた境地を存分に見せてほしい。そして願わくば、心からの笑顔でキスアンドクライに立ってほしい。

できるならば真摯にひたむきに努力を続ける人すべてを勝たせてあげたいと思うが、それは無理な話だ。
だから、25日から始まる「全日本フィギュアスケート選手権」、そしてシーズンをドキドキハラハラしながら見守りたいと思う。



『アラベスク』(山岸涼子著)
アラベスク 完全版 第1部1 (MFコミックス)
アラベスク 完全版 第1部2 (MFコミックス)
アラベスク 第2部1 完全版3 (MFコミックス ダ・ヴィンチシリーズ)
アラベスク 第2部2 完全版4 (MFコミックス ダ・ヴィンチシリーズ)




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