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怪しいネットワークビジネスいわゆるマルチ商法にはまる人

怪しいネットワークビジネスいわゆるマルチ商法にはまる人

何年か前の話だ。
遠縁にあたるおじさんから電話がかかってきたとき、誰だかわからなくて少し混乱した。
電話がかかってくるような親しい関係ではない。どうやら親戚の誰かに電話番号を聞いてかけてきたらしい。

「くろたまちゃん久しぶり。おじさん最近副業を始めてね、すごく身体にいいドリンクがあるから教えたいんだよね。会えないかな?」

おじさんは結構遠くに住んでいて、その日用事があって私の住む町まで来るのだという。

なんだか嫌な予感がしたが、朴訥で誠実な感じのおじさんに嫌な印象はない。
おじさんが遠くから来るということ、とっさに断る理由がみつからなかったこともあって、気が進まなかったが会うことにした。

そのドリンクを薦められたらと思わないわけではなかったが、普通はわざわざ警戒させる副業という言葉を使わないだろうと高を括っていた。仮に買わされそうになっても、口下手なおじさんなら私が嫌だと言えばそれ以上薦めてくるとも思えない。

当日待ち合わせのレストランに着くと、おじさんの傍らにはおじさんとは別のメガネを掛けた男性と若い女性が座っていた。てっきりおじさんだけだと思っていたので、少し面食らう。

挨拶もそこそこに、身体にいいという健康ドリンクを見せられ説明が始まる。
話の主導権は終始メガネの男性が握っていて、おじさんと女性は時折相槌を打つだけだった。

健康ドリンク会社の本部から来たというメガネの男性は、アメリカから伝わったそのドリンクの歴史、いかに健康にいいか、売り上げの何パーセントを慈善団体に寄付しているということ、会員になって自分の紹介で誰かがそのドリンクを購入すると売上げに応じて報酬があがる話、自分が勧誘した人の売上げも自分の売上げになってお金が儲かる、とかいう話を滔々と語った。

私は明らかに気のない感じで話を聞いていたのだが、私が話を聞いていようが聞いていまいが関係ないようで、自分の弁舌に酔いしれている風に見えた。にこにこ話を聞いているおじさんに直接話をしたかったが、独演は終わらない。

ビジネスというより新興宗教みたいだ。

典型的なマルチ商法だった。

ネットワークビジネスいわゆるマルチ商法とは、自分の人脈をお金に変えて商品を売っていくというシステムだ。
商品を介在させず金銭配当のみを目的とするねずみ講と違って、商品の販売を目的とするマルチ商法は、法に則っている限りは違法ではない。ねずみ算的に次々と会員を増やして、ピラミッド状の組織を作り、上の人間にキックバックがある点が似ていて怪しい感じがするが、それをビジネスとして成功させている人も中にはいるのだと思う。

ネットワークビジネスを否定するつもりはないが、仕事関係以外の人間関係に普通は入ってこないはずのお金が絡んでくることに、一般の人は違和感や嫌悪感を抱くのではないだろうか。

メガネの男性の話は延々続いている。引き込まれるものはなかったし、マルチ商法をする人にありがちなカリスマ性はないと思った。

メガネの男性と女性が電話を掛けに席を離れた時、やっとおじさんと話すことができた。

「売れていますか?」

「うん、結構喜んでもらっているよ」おじさんは嬉しそうに答える。

「自分も健康になって、皆に喜ばれていい仕事だよ」

洗脳されているなと思った。正直に副業と初めに言ってしまうあたりが、おじさんの人のいいところで、まだそんなにマインドコントロールされていないことを窺わせる。

違法ではないしやるもやらないも個人の自由だけど、おじさんの人脈がお金に変っているんだよ。皆、適当に合わせてくれているかもしれないけど、じき離れていくよ。
そう言いたい気持ちをぐっと堪えた。

メガネの男性が席に戻ってきて、入会を勧めてくるが、普通の人間関係を築くのもやっとの人間にネットワークビシネスなんて到底無理だ。

会員はなれないと断って、おじさんの顔を立ててドリンクを1ケースだけ買うことにした。市販の健康ドリンクの3倍くらいの価格だった。

おじさんの用事は、知り合いにこのネットワークビジネスを勧めることだったようで、その人たちに会うのがメインで、大して収入のない私は本部の人の手前の、まぁおまけだった。

なので、長い長い話が終わるとそれほどしつこく勧誘されることもなく解放された。

結局そこのレストランの夕食代はおじさんが持った。人のいいおじさんは私におみやげの菓子折りまでくれた。

利用されているだけのように思えた。
話下手のおじさんに勧誘なんかできっこない。本部の人たちだって、いつまでもおじさんに同行してくれるわけじゃない。お金を持ち出しさせて、人脈をことごとく使い果たして利用価値がなくなったら、さっさと見切りをつけるだろう。

本部の人と一緒に帰っていくおじさんを見送りながら、早くマインドコントロールが解けることを祈っていた。
菓子折りと健康ドリンクを入れた紙袋が、腕にずっしりと食い込んだ。




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